この手紙があなたに届きますように。
11人の作家が、それぞれの「ラブレター」に想いを込めて描く、恋愛小説アンソロジー。
あんまり期待しないで読んだんですけど、個人的には意外とよかったのでびっくり!うん。いいじゃないですか…。これ。本の装幀も内外ともにステキ。
・石田衣良 『ありがとう』
ありがとう、ミオカ。―「ぼく」がミオカに送る一編の手紙。
さすが石田さんというか…。お手本のようなラブレターです。上手いわ〜…。やっぱりこう、ちょちょいっと書けちゃうんでしょうか。こんなの。とてもよくできています。(なんか否定的?石田さんの書くものは、つい穿った見方をしてしまうわたし。あざとさを感じさせない、でもあざとい感じが…。でもよかったです。)
・島村洋子 『空』
恋人が画家になるためにスペインに行ってしまい、残された妹。彼女を見守る姉の、心の内の物語。
視点がおもしろいお話でした。この妹さんもいいなぁ。こんな女の子、いいなぁ。ラストのひと言がとってもきいています。
・川端裕人 『ラブレターなんてもらわない人生』
平凡に生きることを信条に生活を送っている幸太に、ある日降りかかった出来事。彼女はいったい誰なのか?
インターネットの掲示板から広がるお話。いまどきな感じ?でも、こういうことも起こるんだったらすてきだなぁと思いました。ラスト、どうなるのかと思いましたが、それもまたすてき!でした。いいぞ!幸太!
・森福都 『再会』
高校時代の親友の夫がノーベル賞を受賞。その受賞パーティーで再会した彼女たちが、ずっと心に秘めてきたことは―。
ぐっとアダルトな感じの…。急だったのでびっくりしてしまいました。女とはおそろしい生き物です。でもありそうで、そこがまた怖い…。このくらいの年月、さらっと超えてしまうんだろうな。
・前川麻子 『ミルフイユ』
彼女のいる人と恋に落ちた女性。軽い気持ちだった、割り切ってはじめたはずだったその恋の行方は―。
この話だけ、妙に気になって何度も読みかえしました。彼女の心の揺れ、みたいなもの。傷つかないように、上手に立ち回って、虚勢をはって、でもそのことに自分でも気付いていて…。それすら恋心の前にはなんの役にもたたない。淡々と語られる物語ですが、すごく心に残りました。ただ、ラストが…それはちょっと…きつくないですか?!他人事ながら…。
・山崎マキコ 『音のない海』
恋人に暴力をふるわれている美穂。彼女のひとり語りで綴る、愛の物語。
うーむ。狂気の愛…。ちょっとこわいです。
・中上紀 『水槽の魚』
アルバイトをやめ、訪れたアジアの国で出会った人。彼にもらった、読めない国の言葉で書かれた手紙は―。
なんとなくちょっと読みづらかったのですが…またこのラストが!えー(笑)。そうきちゃうんですか!
・井上荒野 『虫歯の薬みたいなもの』
偶然再会した中学時代の友人から、当時少しだけ付き合っていた英二の噂を耳にした直生は、懐かしいその街を訪れるが―。
あぁ、なんかわかります。こういうの。こういう行動も。このラストも。きっかけって、こういうものですよね。タイトルもなんかいいです。
・桐生典子 『竜が舞うとき』
きみはオーロラを見るためにここに来た。きみとその約束をしていたのは―。
泣きました。この本を読んで唯一泣いたのがこれです。そういう話だと思わなかったんですもん…。でもすごく好き。よかったです。号泣…。
・三浦しをん 『永遠に完成しない二通の手紙』
ラブレターを書くのを手伝えと、岡田の部屋に押しかけてきた寺島。大騒ぎしながら手紙を書く二人は―。
すごくよかった!さすが三浦しをんさん…。これはもう、三浦さんじゃなきゃ書けません!途中では何度も笑いました。彼らの会話がもう…おもしろすぎます。そしてラスト…!切ないなぁ。切ない。胸きゅんです。いいぞ!がんばれ!(何を?)
・いしいしんじ 『きまじめユストフ』
手紙泥棒をして生計をたてているザミャーチン。ある日彼が盗み出した手紙の差出人は―。
いしいしんじさんらしい、とてもステキな物語でした。いいなぁ。心にぽっとあったかい火が灯ったような、そんな気持ちになれました。なんというか、もう彼らの名前だけで私の心はわしづかみです(笑)。