| 十八の夏 光原 百合 双葉社 2002-08 |
表題作でもある「十八の夏」の他、花をモチーフにした四つの短編が収録されています。初めて読んだ光原さんの本です。
ミステリーと帯の紹介に書いてあったのですが、特にミステリーという感じはしなかったです。(読み違い?)あと印象に残ったことは、四つの短編の主人公がみんな男の人なこと。なんか意外でした。(勝手に女性が主人公の話だと思い込んでいたので…。)男性が主人公で、こんなに全体がやわらかい感じって、すごいなぁ。どのお話も特にインパクトがあるというわけではないんですけど、なんだかゆったり読めました。そして、どの短編にも漂う、どこまでも希望を失わない感じが…とても気持ちよかったです。きっと作者さんの人柄なんだろうなぁと、妙にそう思ってしまう物語たちでした。
受験に失敗して浪人生になった男の子と、年上の女性の、ひと夏の物語「十八の夏」。妻を亡くした書店員が恋に落ち、八歳の息子にどう伝えるか悩む「ささやかな奇跡」。恩師の“娘”に恋をしたらしい兄を持つ弟が語る「兄貴の純情」。
この「兄貴の純情」に出てきた、ちょっと変わったダメお兄ちゃんの、全然ダメじゃない一世一代の名台詞。
「人間ってのはな自分勝手なもんだ。人のためって言ったって、たいていは自分のために行動してる。誰かのために何かをするのは結局、その人が悲しむのを見ると自分がつらいからだ。その人が喜ぶのを見ると自分がうれしいからだ。それでいいんだよ。ただそれを忘れちゃいけない。それを忘れると、自分はアンタのためにこんなにやってあげたって優越感が生まれる。なのにアンタは返してくれなかったって恨みが残る。馬鹿な話だ。」
一番心に残りました。ズキっとしました。
ほんと、それじゃ馬鹿ですよね。このことを、ちゃんと忘れないでいられるような人間になりたいです。(難しいですけど…。)
そしてこの本の一番最後に収録されている「イノセント・デイズ」。妻の実家の塾で先生をしている主人公のところに、ある日、教え子だった女の子が六年ぶりに突然姿を現します。六年前、彼女にふりかかった忌まわしい出来事とは…という物語です。
他の作品に比べてこれが一番ミステリー色が強かったかなと思います。なるほど、内容は結構ドロドロしているし、恐ろしいことを書いているのですが、雰囲気がそうでもないのがなんだか不思議です。主人公の男の先生がどこまでもやさしいからかな…。作品中に出てきた、広島の県花「夾竹桃」のエピソードも、知らなかったですし、そしてまさにこのタイミングで読んだことで、とても心に残りました。ラストもよかったです。
【追記】
最後のあとがきを読んで、雑誌に連載していたときの挿絵を井筒啓之さんが担当していたということを知りました。それ見てみたかったなぁ…。(←大ファン。)