第二次世界大戦末期、日本軍によってキスカ島に残された四頭の軍用犬。人間に、そして時代に翻弄されながらも、子孫を増やし、生き抜いていく犬たち。時にすれ違い、時に交わりながら世界中に散っていく彼らは…。
犬が主役の戦争小説だというので、犬が人間のように会話をしたり、回想したりしながら戦争のことを語るような、そんな安易な想像をしていた私ですが、まったくの誤りでした。そんなもんじゃありませんでした。こんなふうに戦争を描けるなんて、犬の歴史でひとつの時代が語れるなんて、思ってもみませんでした。この斬りつけるような語り口で繰り広げられる世界は、圧倒的でした。
犬たちの物語と、それに交互して語られる人間の物語。つかみどころがなくて、時系列も明確でなくて、何がなんだかわからないその世界に、ぐいぐい引き込まれました。次はどうなるんだろうという興味のわく暇すらないぐらい、目の前の出来事にとらわれて読みました。(ちなみに、おもしろい…と言っては何ですが、「快犬仮面とサモア人ボディーガードとカブロン」のエピソードが個人的には一番好きでした。この本を読んでいて途中で笑うとは思わなかった…。)
とりあえず私は犬たちの系図(誰が誰の子でどういう名前で)というのを書きながら読み進めていたのですが、途中からそれだけでなくて、「誰がどこで誰と出会い何が起こって」というのも書き加えていくようになりました。何しろ読みながら書いているので、めちゃくちゃきたないものができあがりましたが、最後にそれを見てぞっとするような思いがしました。ソ連、アメリカ、中国、ベトナム、アフガニスタン…世界中、ありとあらゆるところに散らばり、そしてリンクしていく犬たち。それだけで描かれたこの本のすごさを、あらためて思ったのです。この本を読み終えた記念に、そしてこの衝撃の記念に、この紙はずっととっておこうと思います。(チラシの裏なんかに書くんじゃなかったな…。)
【追記】
いろんな感想を見ていたら、「系図と世界地図をつけてくれればよかったのに」という意見がとても多かったですが、でも、それがついていたら初手からネタバレかと…(汗)。あったら確かに便利かもしれませんが、自分で書きながら読むほうがいいです。絶対。すごくおもしろいです!オススメです!うぉん。