| 福音の少年 あさの あつこ 角川書店 2005-07-20 |
同級生の藍子とつきあっている十六歳の永見明帆。そして藍子の幼馴染で同じアパートに住んでいる柏木陽。微妙なバランスの関係の三人。明帆の家に突然陽が泊まりに来たある日、アパートが火事で全焼・九人が犠牲になるという事件が起きる。真相を探り始める二人だったが、事件は思わぬ進展をみせ…。
混沌とした少年の闇をテーマにした作品です。本当の自分とはいったい何なのか?説明できない不安や恐怖におびえ、そんな中でも自分を飼いならそうとし、それもうまくいかずもがき苦しむ。そんな自分を持てあます。自分でも自分の中にあるものが何なのかわからない。でも伝えたい、わかってほしい。それなのにうまく言葉にならない、できない。そのもどかしさ…。読んでいて、私もその闇に捉えられ、苦しい気持ちになりました。
彼らは、触れたら切れそうな…というのでしょうか。ぎりぎりの境界を生きています。そしてそんな闇を抱えているからこそ、危ういからこそ、美しい。その感触が生々しくて、どきどきさせられました。そして、似通っていそうで、違う、この二人の少年の関係。そこにもどきどきさせられました。というか、どきどきはもうさせられっぱなしでした。彼らに、そして物語に。
生きていくって、なんて大変なんだろう…。ただ明るければいいものではない、前向きならいいものではない。そんなの嘘っぱちです。誰もが抱えている負の感情、闇。それでも、その闇の中に、どっかにきっと一筋の光が射す、それを信じたい、信じて欲しい…そんな祈るような気持ちでした。正直、読後感は爽快とはいえません。すっきりしない、心に重いものが残ったままです。でもそれも、その重さも、この物語が伝えたかったことなんじゃないかな…と思います。