レコードのA面・B面のように、ひとつのストーリーを二人の別主人公の視点で綴った短編十二編です。
何しろ執筆陣が豪勢です。
吉田修一、森絵都、佐藤正午、有栖川有栖、小川洋子、篠田節子、唯川 恵、堀江敏幸、北村薫、伊坂幸太郎、三浦しをん、阿部和重。
おぉぉ。ほとんどが一度くらいは著作を読んだことのある作家さんです。
・吉田修一 『ご不在票−OUTSIDE−』『ご不在票−INSIDE−』
荷物を届けに来た宅配便ドライバーと、その荷物を受け取る男との、
ドア一枚を隔てた悲喜こもごも。
これは全作品の中で一番ショッキングだったかも…。
このラストには救いがあるのか、ないのか。
・森絵都 『彼女の彼の特別な日』『彼の彼女の特別な日』
お互いに一つずつ願いを叶えあいませんか?―バーで出会った男女の、
それぞれの抱える気持ちを描いた物語。
おぉ、森さんの大人の小説がここにも…。
この先の物語が明るい感じがするところが好きです。
・佐藤正午 『ニラタマA』『ニラタマB』
電話でニラタマの出前を頼む男と注文を受ける女の、
携帯のアラームにまつわる物語。
片方が想像する物語と、もう片方のその現実と。
ほほぅ、こんなもんだよなぁという…。
・有栖川有栖 『震度四の秘密−男』『震度四の秘密−女』
結婚を控えたある夜、距離を隔てた男女をつなぐ、一本の電話の物語。
男ってバカだなぁ(笑)。やっぱり女の方が一枚上手…。
でもこの二人はきっとよい組み合わせだと思いました。
・小川洋子 『電話アーティストの甥』『電話アーティストの恋人』
電話アーティストだった叔母の死。遺品を整理するその甥と、
彼がかけた電話の相手の物語。
電話アーティストさんの作品の名前は全部電話番号…と。
個人情報保護法案がっ、とか全然関係ないことを思ってしまいました。
この「電話アーティスト」って発想がなんか小川さんらしいなぁと思いました。
・篠田節子 『別荘地の犬 A-side』『別荘地の犬 B-side』
ある別荘地で犬を拾った女性と、その犬を引き取りに行く女性の物語。
Aの物語がただBの準備編みたくなってしまったのがもったいなかったかな…。でもよかったよかった。
・唯川恵 『<ユキ>』『<ヒロコ>』
美しい女性であるユキと、まったく対称である女性「ヒロコ」の、
それぞれの幸せをめぐる物語。
これはどっちが幸せなのかなぁ…。十二時間眠れば現実は半分か。なるほど。でも『<ユキ>』を読むと『<ヒロコ>』の方は読まなくてもわかりました(笑)。
・堀江敏幸 『黒電話−A』『黒電話−B』
黒電話を欲しがる孫のためにそれを探す男と、その子の母親の物語。
これが一番好きだったかも!短い物語ならではのよさにあふれていたと思います。黒電話、私もまた使ってみたいなぁ…。
・北村薫 『百合子姫』『怪奇毒吐き女』
美しい学校の先輩に思いを寄せる男の子と、
その友達にして相手の女性の弟である男の子の物語。
まぁ、現実なんてこういうものです!(笑)。がんばれ、少年!
・伊坂幸太郎
『ライフ システムエンジニア編』『ライフ ミッドフィルダー編』
小学校の頃からの友人である、エンジニアとサッカー選手の物語。
こういう伊坂さんもいいなぁ…。すがすがしい感じがしました。
なんだか明日もがんばるぞ!というキモチになれます。
・三浦しをん 『お江戸に咲いた灼熱の花』『ダーリンは演技派』
時代劇ドラマに出演中の人気俳優とその恋人のくりひろげる、
ちょっとおかしな物語。
いいなぁ!これも好きです。いいなぁ、うん、いい!
この短さでこれだけまとまってるなんて、すばらしい!
この作品がこの中では二番目に好き…かも。
・阿部和重 『監視者/私』『被監視者/僕』
監視するものとされるものとのささやかな物語。
すごく短いのに、秘密めいていて奥が深そうでどきどきしました。
なんかもっと壮大な物語にもふくらみそう。
というわけで、こんな十二編。どれもほんとうに短いですが(むしろこれだけ短く書くというほうが大変なのでは…と思いました。)、楽しめました!
文庫本ですし、気楽に読めてオススメです。(図書館で借りたのですが、手に取るまで単行本だと信じてうたがわなかったわたし。びっくりしました…(笑)。)