六人の人気作家が「恋愛」というテーマで書き下ろした豪華な短編集です。
男性作家のみのこういう本ってめずらしいんじゃないかしら…。
・伊坂幸太郎 『透明ポーラーベア』
動物園で僕が偶然出会った姉の恋人だった人。五年ぶりに再会したその人と、思い出す姉の思い出は―。
独特の文章でした。()がすごく多い…でもきらいな感じではなかったです。人と人の繋がりというもの。はかないようでいて、でもそれでいいのかもしれない。ラストのシーンはなんだか夢の中のような、魔法のような、なんともファンタスティックな感じでした。しかしこの主人公の彼女、なぜか全く好きになれないのですが…!
・石田衣良 『魔法のボタン』
失恋したてで落ち込む隆介と、そんな彼の愚痴につきあう、幼馴染でちょっと男っぽい女の子・萌枝。週末ごとに会ううちに二人は―。
話しかけるような隆介の一人語りがなんだかくすぐったかったのですが、さすが「上手い」なぁ。女の子もかわいかったし、意外性はなかったけど、でもなんだか全てのシーンがほほえましくて好きでした。男性の書く恋愛小説の王道??女性作家さんは絶対書かないと思います(笑)。
・市川拓司 『卒業写真』
「わたし」が偶然街中で出会った中学時代の同級生。なかなか思い出せなかった彼と、話がはずむうちに…?
ほほえましいです。いいですねぇ。すっかり歳をとってしまったので、私はもうこんなふうに素直に人と出会って話ができないような気がします。しかしそんな、ほんの数年前のこともすっかり忘れちゃうものなのかしら??大丈夫?ひさしぶりに自分の卒業アルバムを引っ張り出してみたくなりました。
・中田永一 『百瀬、こっちを向いて』
尊敬する先輩に頼まれ、彼の恋人と「つきあってるふり」をしなくてはならなくなったノボルですが…。
ストーリーとしては非常にわかりやすく、ありがちなのですが、とにかく構成が上手だなぁ!と思いました。今現在と、あの頃という過去と。行ったりきたりしながら、ちょっとずつちょっとずついろいろなことが見えてくる感じ。おもしろかったです。この二股男が憎めないのはなぜだろう…。キャラクターの魅力??
・中村航 『突き抜けろ』
電話する日も会う日も、きっちり決めたおつきあいをしている僕と彼女。そんな僕がある日友達に連れられて行った先で出会ったちょっと変った男性は…。
ラブストーリーという枠よりも、もうちょっと大きなことが書かれているみたいな物語でした。「突然降りてくる実感」。なんだかすごくわかるような気がしました。伝えたくていっぱいになる気持ちも。男の人の中では、友達と恋人と、こういう位置関係なのかなって思いました。やっぱり女とは違うなぁ。主人公の彼以外の登場人物のサイドストーリーとかも読んでみたくなります。
・本多孝好 『Sidewalk Talk』
別れを決めた男女の、最後の食事。これでもう会うこともないのだと思いながらも僕は―。
ぐっと大人の小説。(やっぱりタイトルは英語なのねと思ってみたり。)男と女の、なんというか寂しさみたいのがずっと漂って…そしてラスト。うわぁ、ぐっときました。これから彼らがどうなるのか、それが明確に書かれているわけではないですが、幸せになるなじゃないかな。二人の関係がどんな形であれ…。これがラストに収録されているのはやっぱりすごくいいと思います。