| カタブツ 沢村 凜 講談社 2004-07 |
出会ってはいけなかった二人が出会ってしまったら―「バクのみた夢」の他、「袋のカンガルー」「駅で待つ人」「とっさの場合」「マリッジブルー、マリングレー」「無言電話の向こう側」と、「カタブツ」達がおりなす様々な物語を収録した短編集です。
『
最後の恋』から気にはなっていた沢村さん。
ゆうきさんや
ざれこさんのオススメを受けて読んでみました。
…大お気に入りです。大好きです。特に最初の「バクのみた夢」で、すいません、ものすごくツボにはまって号泣しました。すごい、すごいいい本でした。これは買いです!
作者さんがあとがきで書いていらっしゃるように、そしてこのタイトルが示すように、「地味でまじめな人たち」が主人公のこの本。でも、各短編ごとに、手触りも、色も、読後感も違う。本当に全部同じ人が書いているの?「カタブツ」というテーマのアンソロジーだって言われても納得なくらいです。毎回毎回楽しめます(いや、楽しい!ってわけでもないんですけど…飽きさせないというか、意表をついてくるというか)。すごいなぁ。読んでから一日たちましたが、今各短編のタイトルみただけで、ちゃんと中身が浮かびますもん。(え?普通?私は普段だとできないんです、これが…)。
「バクのみた夢」
お互いに家庭を持っているのに、出会い、愛し合ってしまった道雄と沙緒里。誠実さゆえに配偶者をあざむきつづけることができなくなった二人が出した結論は…。
もう、ほんとに、ど真ん中ストライクだったのです。この物語。普通にど真ん中だったのに、さらにこのラストで駄目押しというか、満塁サヨナラホームランというか(比喩が変です)、この最後の一段落が…すばらしすぎます。脱帽、そして号泣。
「袋のカンガルー」
わがままで身勝手なのにほおっておけない亜子と、僕にとっての奇跡の女性・英恵。二人の間で僕は…。
これはまた、展開がすごくうまいなぁと。「亜子」この女性は誰だろう?何だろう?さんざんそう思わせておいて、気にさせておいて、いざ事実が明らかになったら急にぱったり彼女は物語の中に登場しなくなるのです。男女の駆け引きのように…やられました。この余韻をひきまくるラストにもうなりました。えぇ、どうなるの(泣)?私個人的には…彼は一生「彼のまま」だと思います…。
「駅で待つ人」
何であんなことをしたのかって?僕はただ見知らぬ駅に立っていただけですよ…。
がらっと変わって、これは主人公の一人語りで話しが進んで行きます。「あんなこと」が何なのか…それは最後の最後に明らかになります。びっくりしました。そして、ちょっとこわくなりました。
「とっさの場合」
大切な大切な自分の息子。その息子が死ぬ夢を見て目覚めた私。そして今日も彼女が私のところにやってくる…。
「強迫神経症」がテーマです。真面目で頑張る人ほどかかりやすいというあれですね。私はたぶんそういうタイプではないのですが、でもこの主人公の「私」の語り口がリアルで、体験したこともないのに我が事のように心がざわざわしました…。このラストには、なんとなく救われた気がします。
「マリッジブルー、マリングレー」
結婚を目前にし、婚約者とともに彼女の実家のある土地を訪れた昌樹。初めてみるはずのその景色に、なぜか見覚えがあることに気付いた彼は…。
なんというかもうタイトルからして上手いですが。こちらはまたがらっと意匠を変えて、ミステリィタッチです。記憶のない二日間、自分はいったいどこで何をしていたのか…。そして解決したかと思いきや、のこのラスト。ぞくっとするなんてものじゃぁ…。ひー。
「無言電話の向こう側」
いつでも自信満々の親友・樽見。彼と俺・須磨陸とが出会い、そして親しくなったきっかけは…。
いいですー。すごくいいですー。ラストにこの短編が来て、なんかもう気分は最高、ありがとう、という感じです。(頭悪そうですいません)。「思い知らせてやる。おまえが誰も頼ろうとしなくても、友人とは、勝手におせっかいをする存在なのだと」。泣けてしかたありませんでした。いいです。…ほんとうに!